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映画「モリのいる場所」

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 モリとは画家熊谷守一のことで、明治三十年、岐阜県恵那郡(現中津川市)付知村(現付知町)生まれ。昭和四十一年九十七歳で亡くなるまで絵筆を持ち続けた。この映画は熊谷守一の九十六歳の夏の一日を描いたもので、老妻とお手伝いさん、入れかわり立ち代わり訪ねて来る客、隣人などが登場人物。守一を俳優山崎努、老妻を樹木希林が演じている。  守一は東京美術学校(現東京芸大)で西洋画を学び首席で卒業するが、父の急死で家運が傾く。様々な職業を転々とするが、二科展への応募は続けた。大正十一年結婚、五人の子を得るが、戦前、戦中の貧しさの中、三人の子を失う。彼の代表作とも言われる「ヤキバノカエリ」という絵は、白い骨箱を抱えた息子と娘と守一自身が描かれていてとても哀しい。彼は、黒田清輝や藤島武二に師事した写実画が出発点だが、戦後は明るい色彩と単純化した形を特徴とする画風を打ち立てた。  彼の絵画が岐阜県美術館に多く所蔵されていることから、私の所属している俳句結社の俳誌の表紙絵に四年間守一の絵を使用させてもらった。水滴や猫の絵、そして最後は彼の最晩年の作品「鬼百合に揚羽蝶」の絵だった。今から思うと、とても光栄なことだった。  さてこの映画、あまり詳しく書くとネタバレでひんしゅくをかうが、主演の山崎努と樹木希林の演技がとてもいい。二人とも日本映画を牽引してきた名優たちばかりだ。「私は生きていることが好きだから他のいき物もみんな好きです」という守一の言葉があってこその画業だ。

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