丹波では昼間のひまわり句会の他に、夜しか来られない人のために、つはぶき句会を開いている。その句会で毎回、野草や季節の珍しい花、果物まで持参してくれる人がいる。
今月は何と鈴虫をケースに入れて持ってきて下さった。本人よりもそのご主人が植物や生物に造詣が深いとかで、鈴虫用の土を敷き、蛇の髭草をあしらい、採れたての茄子が配置された中に、雄雌合わせて六匹の鈴虫。
みんなが覗き込むので、最初は全く鳴かない。そこで句会場の隅のカーテンの後ろに置いた。句会が始まり、静かに清記しはじめると、「リーン、リーン」ととても澄んだ音色で鳴きはじめた。鳴くといっても翅を擦り合わせた音なのだが、雄だけが鳴くのは、やはり雌に求愛する音色なのだろう。
句会が終わり、持参した方が「先生にもらってほしいんですが」と言う。三年くらい前に、飼ったことがあるが、上手に孵化させることもできなかった。「孵化とか、難しいでしょ?」と言うと「大丈夫、また教えますから」と。
翌日の、ひまわり句会十周年のお祝い会にも持参して見せたあと、鈴虫を提げて福知山線に。犬猫の持ち込みは許可がいるけれど、鈴虫はいいだろう。虫たちは道中、未体験の電車や新幹線の揺れや、駅の雑踏の中、さすがに一声もあげなかった。各務原に帰り着き、玄関の少し暗い所に置くと、高らかに鳴きはじめた。「今日からは美濃の鈴虫になるんだよ」と言いながら水分を補給。鈴虫のもう一つの名は「月鈴子(げつれいし)」実に涼しげな名前だ。
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