二年前の秋頃、ふっつりいなくなったシロ(メルの母猫)が、最近姿をみせるようになった。白い猫などいっぱいいるけれど、この猫に関してはほれぼれするような美形。真っ白で細身、耳がピンク色に透けていて、尻尾も細く長い。
元々は野良で、外で餌をあげていた。四年前の夏、家に上がっては二階の物置に駆け込んでいく。何だか変なので調べたら、物置の奥に小さな毛糸玉のような仔猫を発見。それがメル。うす茶色で丁度ミルクキャラメルのような色だったので孫が「メル」と命名した。二年間は親子で飼い猫として暮らした。二匹が巴(ともえ)の形に寄り添って眠る姿があまりにも可愛いので〈木枯しや巴の形に猫眠る〉などと、私の句材にもなってくれた。
一歳半を過ぎてもメルは母猫の乳を吸っていた。息子が自立できないから家出を決心したのか、シロは突然いなくなった。おまじないの張り紙もしたけれど、このときばかりは効果なしだった。「彼氏ができて駆け落ちでもしたんじゃないの」とか「きっとどこかで飼われてんだよ」と子どもたちが慰めて(?)くれた。
今日もシロはベランダから室内をしばらく眺めては、そーっと部屋に入ってくる。その気配に目覚めたメルは、甘え声を出して近寄る。決して怒らないから、懐かしいママだと分かっているようだ。息子の自立のためだったのか、それとも駆け落ちだったのか分からないけれど、帰って来てくれたらそれだけでいい。人みたいにめんどくさいお詫び会見もしなくていいものね。
↧